1.電波ソングとは何か

ニコニコ大百科

まずとても参考になるのがニコニコ大百科の、以下の項目。

電波ソングとは (デムパソングとは) [単語記事] – ニコニコ大百科

電波ソングと呼ばれるジャンルの歴史的形成過程について、丁寧に解説してくれている。
中でも特に俺が注目したいのは、冒頭に掲げられている定義だ。

電波ソングとは、(中略)「萌え要素」や「電波な歌詞」により驚異的な中毒性を有する楽曲のことをいう。

「驚異的な中毒性」。
これですね。
これは、電波ソングの魅力を端的に表現してくれている、とても的確な定義だと俺は思う。
細かいことは放棄して、とにかく快感中枢にダイレクトにヒットするような音をつくって鳴らすこと。
ここに、電波ソングの最大の魅力がある。

 

英語版Wikipediaの「Denpa Song」の項目

さらにもう一つ、参考になるのが英語版Wikipediaの「Denpa Song」の項目を日本語訳してみたという、以下のページ。

【翻訳】英語版WikipediaのDenpa songの項目を日本語訳してみた – 今私は小さな魚だけれど 

ここで特に参考になるのは、電波ソングの「電波」とは何ぞや、という部分だ。
「起源(Origins)」という項目に、明確に書いてある。
電波ソングはときに、「無意味」や「めちゃくちゃ」と思われることもあるが、俺はそうではないと思う。
それでは俺の好きな電波ソングの、あの「ぶっ飛び」具合や、「壊れ」感は出ない。
電波ソングには「意味」や「コード(文脈)」が欠けているのではない。
むしろ、まったく異質な「意味」や「コード」に基づいているから、あんなにも「わけわからん」ものになるし、それでいてどこか「面白い」のだ。
では、以下から、実際におすすめの電波ソングの名曲を9曲紹介していこう。

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2.電波ソング黎明期のおすすめ名曲2曲(+1曲)

「君はホエホエ娘」(1989)

どんなジャンルの音楽にも、その始祖の時代におけるエポックメイキングな古典的名曲というものが存在する。
ロックならばたとえば、チャック・ベリーの「Johnny B. Goode」(1956)や、エルヴィス・プレスリーの「Jailhouse Rock」(1957)など。
ヒップホップなら、シュガーヒル・ギャングの「Rapper’s Delight」(1979)や、グランド・マスター・フラッシュ&フュリアス・ファイブの「The Massage」(1982)など。
これらの名曲は、別にそれだけでシーンを作り上げたわけではない。
ただ、そのシーンが生まれた時代をふり返る時に、シーンを代表するにふさわしい象徴的な曲として、記憶と記録に残る名曲になる。

 

電波ソングにおいて、その古典的な名曲に当たるのが、ファミコンゲーム「アイドル八犬伝」の劇中歌「君はホエホエ娘」(1989)だ。

あらゆる古典的名曲がそうであるように、この「君はホエホエ娘」も、明らかにあの時代の音作りでありながら、古びない先鋭さを持っている。
この古びなさが、後世に与えた影響の大きさを物語っている。
たとえば後に電波ソングの再定義を試みることになるMOSAIC.WAV(このページでも紹介するが)を聞いてみても、クラシックな電子音や、おしゃまで気ままな歌詞やヴォーカルの世界観が、この頃からほぼそのまま受け継がれていることがわかる。

 

もう一つ、注目すべき点としては、電波ソングの古典とされるこの曲が、ゲーム音楽だったということだろう。
(映像ではゲーム画面と歌が重なっているが、実際のファミコンソフトには歌など収録できないため、電子音のみの再生になる)
これから紹介することになる電波ソングの名曲たちのほとんどがそうであるように、電波ソングはゲーム音楽のプラットフォームで展開されていくことになる。
その前に、アイドル方面から生み出された電波ソングにも少し触れておこう。

 

宍戸留美 「地球の危機」(1991)

アイドル業界から出された電波ソングの古典的作品がこちら。

とても「電波」らしい「電波」といえば、むしろこちらのほうだろう。
「宇宙から指令が来ちゃった」という歌詞の内容や、わざとよろけてみせる振り付けからして、そもそも「電波ソング」を作ろうとして作られた曲だと思う。
普通に歌を聞こうと思ってテレビを見ている一般層に対しては、明らかに「誤配」だ。
アイドルもほとんどオタク相手の商売であり、宍戸留美は結果として声優方面に進むのだから、これはほぼ狙い通りの一曲と言っていいだろう。

 

南野陽子 「へんなの!」(1990)

これはちょっと番外編。

「イッてる」感の強さでは、宍戸留美よりこちらのほうが上だ。
ただ、こちらはオタク層へのアピールというよりは、本人の迷走の上での「間違っちゃった」作品として語られることのほうが多い。
ファン達がこの曲を受け入れようとして口にする、「まあ、曲はいいんだけどね」という言葉にもあまり意味はない。
電波ソングは「中毒性」を志向するから、電波ソングの名曲は例外なく「いい曲」だ。
南野陽子のこの「へんなの!」は、電波ソングを作る気がなかったのに、結果として電波になってしまった稀有な例だと俺は思う。

 

このように、ゲーム音楽以外にも、電波ソングと呼べそうなものは作られている。
おニャン子や「なんてたってアイドル」などの秋元康の仕事にも、電波に近いものが存在するし、つんくのハロプロ周りにもあるだろう。

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3.電波ソング隆盛期の名曲4曲 (アーティスト編)

俺がオタク生活をやっていたのが、2007年を中心とした、前後数年間だ。
当時の俺は電波ソングに夢中になった。
時代的には、秋葉原を中心としたオタク文化が、世間的にまともな認知をされ始めた頃だった。
それまではオタクといえば、よくてネクラ、悪ければ犯罪者予備軍とみなされたものである。
あの頃、「電波ソングが好き」だとか、「エロゲをやっている」だとか、そんなことを口に出すのには細心の注意を払う必要があったものだ。
AKB48なんてのは完全にイロモノで、ロリータ趣味の汚いおじさんが通い詰めるものだと思われていた。(←偏見注意)
そんな時代に、そんな時代だからこそ、生まれた名曲たちを紹介しよう。
時代をひらき、時代をつくった名曲たちだ。
まずはアーティストに焦点を当てながら、4曲を紹介する。

桃井はるこ 「いちごGO!GO!」(2001)

「電波ソング(萌えソング)をやる」ことを明確にコンセプトに据えた活動の先駆者、桃井はるこが2001年に発表した曲。
もちろんエロゲの主題歌。
今聞くと、普通のアニソンに毛が生えた程度のものにしか感じられないが、「合いの手」のロリっぽい気持ち悪さに、今につながる電波の伝統を感じられる。
こういった「合いの手」は、ヲタ芸とも相性がいい。
桃井はるこはこの後、すさまじく精力的な活動をつづけていくのだが、エロゲ界隈の仕事をあまりしなくなってしまったので、俺はあまり詳しくない。
たぶんすごい人なので、興味があれば調べてみてください。

 

KOTOKO 「さくらんぼキッス ~爆発だも~ん~」(2003)

サムネからしてヤバいこの一曲は、しかし俺の知る限り電波ソング史に残る傑作だし、俺のもっとも好きな一曲でもある。
いっさいのためらいや手加減を排除した、このぶち抜け具合を楽しめるか否かに、電波ソングを楽しめるかどうかがかかっている。
「やってるほうは恥ずかしくないのかな?」とかそういうことを考える必要はない。
むしろ映像など見ないで、目をつぶって音に集中して欲しい。
ウォール・オブ・サウンドもかくやというほどの、くぐもって混ざり合ったわけわからん音像の上に乗る、萌え萌えキュンキュンなヴォーカル。
身を任せれば、脳が溶けてくること請け合いである。

 

この映像を見てKOTOKOのことを気持ち悪いと思ったあなた。
その気持ちはわかる。
なぜこの曲だけ実写PVしかYouTubeに上がっていないのか
しかし俺の知る限り最も偉大な電波ソングアーティストは間違いなくKOTOKOだ。
本当ならKOTOKOだけで一ページを割いて紹介しなければならないほど、無数の名曲群を世に送り出している。
KOTOKOとI’veがエロゲ業界にもたらした貢献にははかり知れないものがある。
エロゲ界のHall of Fameが創設された際には殿堂入り間違いなしのアーティストだ。
電波ソングを語る上で絶対に外してはいけない最重要アーティストがいるとすれば、それは間違いなくKOTOKOなのだ。

 

MOSAIC.WAV 『SPACE AKIBA-POP』(2005)

『SPACE AKIBA-POP』というのは、曲のタイトルではなく、アルバムのタイトルだ。
電波ソングを語る上でどうしても外せない、もう一組の重要アーティストMOSAIC.WAVが2005年に発表したアルバム『SPACE AKIBA-POP』は、全編を電波ソングで構成されたアルバムとして電波ソング史に永遠に残るだろう。
しかもすべての曲のクオリティが非常に高く、アルバムとしての統一感もある。
つまり電波ソングという音楽ジャンルに属する、紛うことなきオリジナルアルバムの傑作なのだ。

 

このアルバムはさらに、単に傑作である事を超えて、新しいジャンルを切り開こうとしたMOSAIC.WAVの意欲作でもある。
アルバムジャケットのロゴの「A」の文字が大きくクローズアップされていることに注目して欲しい。
MOSAI.WAVは電波ソングというジャンルを、「AKIBA-POP(A-POP)」と呼んで、一つの音楽のシーンを作り出そうとしている。
そしてこの活動は、現在も継続中だ。
(余談だが、音声ファイルに付けられる.wavという拡張子、2005年の頃はまだよく見かけたが、今ではとんと見なくなったものである)

 

fripSide NAO project! 『Rabbit Syndrome』(2008)

アルバム単位での名作といえばもう一枚、短命に終わったfripSide NAO project!の『Rabbit Syndrome』を挙げておきたい。
グッドなメロディ、媚びまくる歌詞とヴォーカル、職人的に美しくて派手なアレンジ、散りばめられる合いの手、と、電波ソングに求められるものをすべて備えた名盤だ。
さらにアルバム終盤に収録されたアレンジ違いのバージョンで明らかになるように、レトロゲームのピコピコサウンドへの愛にも溢れている。
ただ、残念なことにヴォーカルのNaoの脱退に伴い、fripSide NAO project!としての活動は2009年に終了している。
その後のfripSideは電波ソングとは別の路線に転じて成功を収めるので、こちらを知っている人は多いだろう。

 

※Naoの活動については、こちらの愛に溢れたアンソロジーが出ている。
俺は未聴だが、評判は上々の様子だ。

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4.電波ソング隆盛期の名曲3曲 (有名曲編)+1曲

2007年ごろから電波ソングが人気を集めた背景として、ニコニコ動画の存在がある。(β版の公開が2007年1月)
初めてニコニコ動画の事をヤフーニュースで知った時、「何そのだっせぇ名前、絶対流行らねーよ」と思った俺には先見の明がない。
しかし流行ってからは、俺も「二重のきわみアーッ!」などを見ていたクチである。

 

「巫女みこナース・愛のテーマ」(2003)

ニコニコ動画で大量生産されたMAD動画と非常に相性がよかったのが、この「巫女みこナース・愛のテーマ」だ。
ヴォーカルの表現力、メロディの親しみやすさ、アレンジの美しさなど、単純に名曲ではあるのだが、何よりも多数の人々の心をつかんだのはもちろん、終盤の「みこみこナース」の猛烈な連打である。
この部分をひたすらにループさせるMADが人気を博し、のちにはこの曲がドワンゴのCMにも採用されたほど。
とにかく聞いてみて欲しい。
電波ソングを聞く快楽というものを、とてもストレートに教えてくれる名曲だ。

 

MOSAIC.WAV 「ガチャガチャきゅ〜と・ふぃぎゅ@メイト」(2006)

もう一つ、初期のニコ動で人気を博した電波ソングの名曲といえば、「ガチャガチャきゅ〜と・ふぃぎゅ@メイト」だ。
こちらもループものを始めとするMAD動画が多数作られた。
これは上でも紹介した電波ソング界の重鎮MOSAIC.WAVの作品で、脳髄に刺さるかのような電波ソングの名曲だ。
もはや懐かしさすら感じると思ったら、あれから10年が経っているのですね。

 

イオシス 「魔理沙は大変なものを盗んでいきました」 (2006)

単純に音だけでここまですさまじく攻め込んでくる曲はなかなかちょっと見つけられない。
俺は東方周りの活動については詳しくないので、語れることはあまり無いのだが、たとえばイオシスの他の曲を聞いてみればみるほど、この 「魔理沙は大変なものを盗んでいきました」という曲のバランスが奇跡的に優れているということがよくわかる。
やはり名曲の完成度にはバランスというものが重要で、とにかく闇雲に速くしたりぶち込みまくれば気持ちいい、というものでもないらしい。
ちなみにこの曲はカラオケにも収録されていて、当時はサークルの打ち上げなどでよく歌ったものである。
「歌った」というよりは、途中から「聞く」感じになるのだが。

 

痴漢者トーマスⅡ オープニングテーマ (2005)

最後に一つ番外編。

ただ単に貼りたくなったから貼るだけなのだが、これも当時のニコ動でちょっとだけ人気を博した曲。
なんというか、やってるほうは楽しいんだろうなぁという感じだ。
もはや思い出す人もあまりいないだろうが、動画は変わらず健在なので、せっかく思い出したので貼っておく。
こういうのって、オープニングだけ見てるとすげぇやりたくなるよね。

 

5.最後に

今回、声優だとか、アニソン関係のキャラソンとかについては、俺の手には負えなさそうなので手を出さずにおいた。(ちなみに「もってけセーラー服」は、俺はあまり良いとは思っていない)
ただ、「電波ソング」といえば、まずはここに挙げた名曲たちをおさえておけば、まず基本としては問題ないと思う。
あとは、ここから派生して調べていけば、いくらでも名曲・良曲たちは出てくるだろう。
深入りはおすすめしないが、人間の快楽の側面だけ刺激しとけばいいこれからの時代において、さらに需要の伸びてくる分野であろうと思う。
このページを訪れた人の、何かの参考になれば幸いだ。

 

 

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