広告

 

Question

もはや何十回と聞いてしまっているので、初めて聞いた時の感覚をあらためて言語化するのは難しい。

それでもなんとなく思い出しながら書いてみるならば、清水翔太の8thアルバム『White』を初めて聞いた時にパっとアタマに浮かんだ感想は、「too personal(あまりにも個人的)」だった気がする。

ポップソングが「ポピュラー」であるためには、ある一定の「距離感」というものがあって、それが「作り手と曲」、「聞き手と曲」を相互に隔てている。

この『White』というアルバムの曲のいくつかは、あまりにも「作り手に寄り過ぎている」と感じさせるものがあった。

それはもちろん生活に密着した歌詞にしてもそうだし、伝統的なポップソングの形式から逸脱した曲作りにしてもそうだ。

 

「too personal」なポップ作品というのは、ほとんど「退屈」と同義になりかねないリスクをはらんでいる。

しかし『White』を初めて聞いた時の感覚をもう一度言語化してみるのなら、「どうもまだよくわからない」だった気がする。

聞き手としての自分の、音楽を受け止めるリスナーとしてのフォーマットが、どこかの部分でこのアルバムに適合していないという感覚。

結局、3分半のグッドミュージックをただ求めているだけの自分では、このアルバムを理解することはできないだろうという予感。

これまでのソウルレビューの中で「ポップソングの限界を超えてくれ清水翔太」などと自分で煽りながら、『White』を聞いた自分は未だに典型的なサビとブリッジが無くなってしまっていることにがっかりしているような、そんな感覚。

ではいったい、このアルバムはどのように聞いたらいいのだろう。

 

Answer

自分の中でピンッと一本の線が通ったかのように、「ああ、そういうことか」と心構えのセットの仕方が理解できたのは、清水翔太のインタビューを読んでいた時だ。

これは答えになっちゃう部分もあるので、言いたくない気持ちもあるんですが、確実に影響を受けているのはFrank Oceanですね。

【インタビュー】清水翔太 『WHITE』 | 自分に賭けて孤独に背負う http://fnmnl.tv/2018/06/29/55400

これで何かが、自分の中で腑に落ちた。

それからは、なんだか糸がつながるように、「あれも」「あれも」といくつか思い出すものがあった。

カニエ・ウェストが関連したアルバムが5月から5週連続でリリースされている。

その中の一作であるNasのアルバムの1曲目が「Not For Radio」という曲なのだけれど、このタイトルと歌詞の内容との関連が、今一つ意味が分からない。

しかしなんとなく感じるのは、これらの5週連続リリースは基本的にデジタル配信のみだということ。

ポップソングといえば1950年代以来、ラジオでオンエアーされて、レコードで購入されるものと決まっていたのだけど、もはやその伝統は失われた。

 

そして今年一番の衝撃はTierra Whackの『Whack World』。

このアルバムには、1分の長さの曲が15曲収められている。

アメリカのレコーディング・アカデミーが定めている「アルバムの定義」=「全体の長さが30分以上。あるいは5曲以上を収録して長さが15分以上でなければならない」に則った「最小のアルバム」である。

 

この『Whack World』を初めて聞いた時、俺は泣きたくなった。

ポップソングの未来をそこに見たからだ。

このアルバムには、俺の好きなポップソングの要素の、ほとんどすべてがあるように感じられた。

それでいて、切り詰められて、小さくパッケージされ、完成されていて、しかもいつでも接続や拡大ができるような拡張性もある。

ポップソングはいよいよ、レコード会社やマスメディアのような「中央」を経由しない時代に入る。

誰もが気軽につくり、交換し、接続し、作り替え、一人ひとりの生活にもっと密着したものになる。

 

清水翔太がフランク・オーシャンに勇気をもらいつつ、自前のスタジオで作り上げたというその制作風景を思う時、俺の脳裏にはこれだけの連想が走った。

それで、なんだか『White』を聞く心構えがわかったような気がしたのである。

俺の中では、たとえば山下達郎や大瀧詠一のようなポップ職人のアルバムを聞くような心構えで耳を澄ませていたのだけど、そうではなかった。

カニエ・ウェスト関連の5週連続リリースがすべて7曲入りアルバムであるような、そしていよいよ息を吐くようペースで曲やアルバムをリリースしていくような、そういう時代の作品の一つとして聞く心構えで聞くのだ。

 

アルバム『White』のソウルレビュー、9月10日までに全曲書きます。

あと、そういうことを考えつつ、清水翔太モデルの登場人物もまじえて、なんとなく書いた小説があるので、よかったらこちらも読んでみてください。

「感情をインストールしてください -emotion-not-installed-」

またお会いしましょう。

 

広告